阿部勘 純米吟醸 山廃 　　720ml

塩竈の朝の澄んだ空気をそのまま瓶に詰めたような
静かで透明感あふれる一本です。
山廃仕込みと聞いて思い浮かぶ重たさや濃さよりも先に
透きとおる印象が立ち上がり
米の旨みは角を立てずにまろやかに広がり
背骨のようにすっと酸が通り抜けていきます。

口に含むと、白い花を一輪
冷たい水に浮かべたような清らかさが舌の上に展開し、
余韻はスッと風のように消えていきます。
「山廃はちょっと得意じゃない」という人にも
そっと差し出したくなるような、
ふくよかさとシャープさの中間地点に立つ
おだやかな味わいです。

ラベルの背景には、山廃を語る上で欠かせない
「乳酸」の化学構造式が描かれています。

合わせる食事は、「今日」の台所と仲良くできるものたち。
胡椒を効かせた卵サンドに、あたたかい白身魚の塩焼きと大根おろし。
鶏もも肉をレモンとハーブで焼いたり、青菜としらすをさっと炒めたり。
どれも手をかけすぎず、まっすぐな美味しさと
さりげない香りをもったお皿がよく似合います。
夜ふかしのひとときには、クリームチーズに少しの柚子胡椒をのせて。

温度は少し冷やしてが最適。
最初の一杯は輪郭を確かめるように
二杯目は少し空気に触れさせながら奥行きをひらいてみるのがおすすめです。
器は平盃でもワイングラスでも、その日の気分で。
どちらを選んでもこのお酒の凛とした姿勢とやわらかな余韻は
食卓をひと呼吸ごとにしずかに整えてくれます。

食事に寄り添い、時間に寄り添い、ふだんの心に寄り添う。
そっと“今日”をやさしく照らしてくれる１本です。